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なんだこれ?!サークルの解説

表現と観賞を地続きにするワークショップ

「なんだこれ?!サークル」は、元美術家で編集者である岩淵拓郎と大阪を拠点に子どものためのアートプログラムを企画・制作しているタチョナとが2014年に共同で開発し、その後国内外で実施してきたワークショッププログラムです。

このワークショップは、1週間から数ヶ月程度の期間をかけて行われます。サークルの新しいメンバーとなった参加者たちは、過去の偉大なパイセンたちが生み出したさまざまななんだこれ?!を通じて、そもそもなんだこれ?!がどのようなものであるかを学んでいきます(この時、権利的問題はさておき、YouTubeやVimeoなどの動画サイトは大活躍します)。次に「ひっくり返してみる」「同じことをくり返す」など、なんだこれ?!でよく見られるいくつかのパターンについて学び、さらにそのパターンを身の回りのもので練習したりして、解像度を上げていきます。そしてようやく、それぞれになんだこれ?!のアイディアをもちより、互いに披露し合い、、さらにそれが本当になんだこれ?!になっているかをディスカッションし、ブラッシュを重ねていきます。そうして完成した参加者のなんだこれ?!は、ライブ、映像配信、展示などのかたちで発表されます。

子どもたちのなんだこれ?!は、いうまでもなく自由で、創造性に溢れ、それぞれに個性的です。しかしそれ以上に興味深いのは、時に彼らがなんだこれ?!が何であるかを完全に理解し、意図的になんだこれ?!を作り上げているように見える点です。このことは多くの大人たちを驚かせ、困惑させ、さらにはさやかな恐怖をも感じさせ、最終的にかなりの切実さを持って「なんだこれ?!」と言わしめます。そして私たちはなんだこれ?!という問題について、今一度深く考えさせられることになるのです。この点においてなんだこれ?!サークルは、子どもだけではなく、大人にとっても大きな気づきをあたえるものです。

なお、説明するまでもなく、なんだこれ?!サークルにおける“なんだこれ?!”は、広い意味での“アート”と同義語として用いられています。ただ、“アート”という言葉が表現と批評という二項対立の関係を無意識に生み出してしまう一方、“なんだこれ?!”は未知なるものに抱く感情や感覚を包括的に表す言葉であり、結果的には表現と批評を地続き扱えることを可能にしています。これは、少なくとも日本のアートラーニングにおけるひとつの発明であり、子どもたちだけでなく私たち大人にとっても、アートとの出会いを根本から変える可能性があると考えています。

岩淵拓郎(なんだこれ?!サークル ぶちょう)

自由な<場>としてのなんだこれ?!サークル

なんだこれ?!サークルは、タチョナがさまざまなアーティストと共同で実施した、子ども対象のアートワークショッププログラムの一つとして生まれました。

一般的にアーティストが考案するワークショップでは、表現の枠組みをアーティスト自身が規定します。つまり彼らの専門領域の中で、彼らの生み出した方法論を用いて、ワークショップはデザインされます。そこではアーティスト固有の表現が魅力となり、子どもたちの感性を刺激し表現の可能性を引き出すことができます。しかしその反面、一人ひとりの興味や関心を生かした表現が生まれるとは限らず、またその表現は規定された枠組みから出ることもありません。

 このような認識から、子どもたち自身の興味や関心をもとに、ゼロから創造的なアイデアを生み出し、表現するワークショップとはどんなものかを考えました。それはおそらく、表現の領域や方法論に囚われず、子どもたち自身がやることを考え実現していく、いわば<場>のようなものではないか。そして、その<場>において必要になるのは、「企画をたて、素材を収集し、整理し、構成する」という編集というプロセスなのではないか。そのような理由で編集者であり、アーティストとしての経験もある岩淵君に相談しました。

なんだこれ?!サークルは、まさにタチョナがつくろうとした<場>に対する、岩淵君からの回答です。<場>には、それぞれ共有される考え方や態度、すなわち世界観があります。このプログラムでは、アーティストの作品に限らずさまざまな表現を参照してますが、それはなんだこれ?!の世界観を共有するためにすぎません。なんだこれ?!という世界観の上で、子どもたちは自らの思考と向き合い、自分だけの表現を模索していきます。そしてその結果として生まれたなんだこれ?!は、私たちに笑いや驚き、違和感などの感情を抱かせ、ついには「なんだこれ?!」と言わせるのです。

2014年以降、なんだこれ?!サークルは国内外の、アート、地域社会、福祉、子育て、教育など、さまざまな領域において展開されてきました。それは、このプログラムによって育まれる創造性が、特定の表現領域や方法論を超えて、われわれが直面するさまざまな困難に立ち向かうための力となりうることの証明だとも言えるでしょう。

小島 剛(一般社団法人タチョナ 代表理事)